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2年前に放送された、NHK“学ぼうBOSAI ”という番組の「民生委員」という回を初めて見ました。

岩手県宮古市田老区。


震災前、ここには住宅地がありました。
その中には体の不自由なお年寄りも。

そんなお年寄りを全員津波から避難させた“民生委員”の方の地道な活躍の記録です。

民生委員の小林さん

岩手県宮古市田老区の民生委員、小林学さん。
民生委員は地域に住むお年寄りや児童の相談に乗ったり、手助けをする人のこと。全国の市町村におよそ23万人います。

小林さんは月に一回、担当する地区のお年寄りを訪問します。
困っていることはないか、などと声をかけ、住民の悩み事や相談に具体的なアドバイスをしています。


それは、小林さんによると「元気確認」なのだそう。


2011年3月11日。
小林さんは海に近い空き地でゲートボールをしているとき、大きな揺れに襲われました。

「その場に立っていられなくて、しゃがみこんでしまった」

「これは津波が来るぞ!今日はこれで解散!」
「各自、貴重品持って逃げろよ!!」

津波警報が出され、小林さんは急いで自宅に戻り、家族にすぐ避難するように言いました。


そのあと、小林さん自身は、すぐ避難せずに、ある行動に出ます。


担当しているお年寄りのもとに向かったのです。


当時小林さんの担当は、144世帯。
中でも6世帯7人の体が不自由なお年寄りが、ちゃんと避難できたのかが気がかりでした。


「逃げろ!逃げろ!早く逃げろ!」
最初の声掛けをして歩きました。
一軒一軒、家を回り、避難を呼びかけた小林さん。

しかしそこで予想外のことが。。


声掛けした家から、
「私は逃げません」と言われたのです。


小林さんは、

「困った。どうしようか。。」


この人をどう説得したらいいのか。時間がかかる。でも、次の家もある。


「早く逃げてくださいね。逃げなきゃ津波が来るよ!」
と言い残して、次の家に行きました。

7人のお年寄りを避難させた

実は、2日前にも震度5の地震がありましたが、大津波は来ませんでした。また、田老地区には高さ10mの防潮堤があったことが油断につながりました。


一軒一軒避難を呼びかけ、急いで全員の家を回った小林さん。
10分が過ぎました。
ここで小林さんは、「2回回らないとダメだな」と。


避難指示をして、そのあと避難したかどうか確認をするということで2回は回った、と小林さん。


声をかけたお年寄りは、みんな避難しただろうか?
今にも津波が押し寄せるかもしれない緊迫した状況。
小林さんはもう一度各家を回り始めました。


すると、まだ家に残っている人がいたのです。


「ここに1人暮らしの老人が、体の不自由な老人がいたんです」と、現場を案内しながら小林さんが説明します。

役場の方に逃げなきゃダメだよ、と言ったら、
「おれは死んでもいいから」
「死んでもいいから逃げたくない」


そのお年寄りは、頑なに避難を拒みました。
一刻も早く非難させたい小林さん。
小林さんはどのように説得したのでしょうか?


「死ぬのもいいけども、冷たい水の中で苦しんで死ぬよりは、暖かい布団の中で死ぬ方いい」と冗談のように話しました。


すると、その本人も、「うん。そのほうがいいかな」と。
なんと、荷物を持って逃げ始めました。


小林さんとのやり取りで気持ちがやわらいだのか、お年寄りはようやく重い腰を上げました。そして、高台の避難場所へ向かったのです。


その言葉がどうして出たかというと、日ごろの話の中から、そういった言葉が出てきたとのこと。定期的に訪問しているときの言葉で話をした。そのほうが通じたということなのです。


普段からみんなと顔を合わせている民生委員。
顔なじみの小林さんだからこそ、思いが通じたのです。


7人のお年寄りを全員避難させました。
そのときでした。
津波が町を襲ったのです。
「私がここに着いて、1分もしない。着いてすぐ高台に上がったから。上がった瞬間に津波が山の端っこから越えてきた」


キャーという声と共に、堤防を超えて波が入ってきたとのことです。もう少し遅れてたら流されていた。


その中のお年寄りの一人、小林良子さん。
「いつも目が覚めると、助かったと思う。忘れられない。」


あの日はちょうど、店がスタンプ2倍の日で、買い物に行こうと思っていた。そこへ、「逃げろ!逃げろ!」と小林さんんが騒いできた。


大きな揺れが収まった後、また買い物に行こうとしていた良子さんに、小林さんはすぐ避難するように言いました。

「助けられた。忘れられない。今でも」

“絆”で救われた命

民生委員だからこそ救えた命。
地域のお年寄りと普段から接し、暮らしの様子や人柄を把握していたことが役に立ったのです。

東日本大震災を振り返って、小林さんは、
「日頃から声掛けしていれば、緊急のとき助けられる」と言います。


「皆さんの近くにも、障害者やお年寄りがいる。
そういう人たちに、ひと声かけて、避難・誘導をしてほしい」と。


普段から周りの人との関係を築いていることが、どれだけ大切なことか。
人とのふれあい、そして「絆」。


それが、地震などの災害が起きたとき、大きな力になるのです。

最後に

民生委員の小林さんは、普段からひとり暮らしで体の不自由なお年寄りを気にかけながら定期訪問をしていました。


緊急だからと言って、普段あまり顔を見せないような人が「津波が来る!逃げろ!」と言っても、避難しなかったかもしれません。


やはり、普段のコミュニケーションが信頼関係に繋がっているのでしょうね。


一見軽口のような死に場所の話など、普段からわかり合っていなければ出ない言葉です。瀬戸際の言葉なのに、力づくじゃないんですよね。だから人は動く。


民生委員という責任もあるのでしょうけど、小林さんの人としてのさりげない温かさが大切な命を救うことにつながったわけですね。