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大きな災害があったとき、被災した人たちの数か月後、数年後の生活がいつも気になります。ニュースなどでの報道が少なくなってくる頃が、実は被災者たちの本当のスタートなのかもしれません。


阪神淡路大震災から22年たって、ようやく今まで知られなかった事実が明らかになってきました。中でも、災害が女性たちの心身に及ぼすリスクです。


MHKの番組“女たちの大震災”から、主要なところを抜粋してみました。
特に男性の方にこの番組を見てほしかったと思います。

震災が与える女性の心身へのリスクとは?

阪神淡路大震災では30万人以上が避難生活を余儀なくされました。避難生活は被災した人たちにどのような影響を及ぼしたのか、詳しい実態が貴重な資料として残されています。


それは、地震直後に体調を崩した3500人の入院記録です。
特に注目されるのは、女性に高まる命を脅かす心身へのリスク。それは、震災から22年たって初めて明らかになりました。


実は、“血栓”が原因で当時、多くの女性が深刻な病気を発症していたことがわかったのです。しかも発症のリスクは20年以上たっても続いています。


それは、当時被災した女性の体から、今も次々と血栓がみつかているからです。昔あった血栓が原因で急に悪くなって突然死を起こす、ということもあります。それはまるで時限爆弾のように急に破裂するのです。

阪神淡路大震災の被災者3500人の入院記録は、震災が被災者の体に及ぼした影響を表す貴重な資料です。これらの資料によると、災害時には、男性より女性のリスクが高まる「脳」「心臓」の病気があることがわかってきました。


入院記録を分析したのは、熊本大学大学院の河野宏明教授。
脳や心臓病の男女差を研究して、災害の対策に活かそうとしています。
河野教授は、「災害の女性への影響はほとんど解明されていない。女性の疾患の特徴を解明することが将来的には、その疾患の予防につながる」と話していました。


通常は男性に多い“脳卒中”
それが、震災後の脳卒中の発症率は、男性が通常の1.3倍なのに、女性は1.8倍になっているのです。


女性の方が格段に多くなっているのは、女性の方にストレス的な影響、地震の精神的な影響が大きく現れたと考えられます。


では、なぜ脳卒中が女性に多く現れたのか?
それは、避難生活のストレスによって、血圧が急激に上昇したのではないかと見られるのです。


強いストレスを受けると全身の血管に張り付いている交感神経が活性化され、血管が締め付けられて血圧が上昇。血圧の上昇が続いて脳の血管が破れると脳卒中につながります。

最近の海外の研究では、この血圧の上昇率には性別によって違いがあることが指摘され始めています。


ストレスを受けたときどのくらい血圧が上昇するのか、男女の違いを比べると、ストレスで交感神経が活性化されるにつれて、女性の方が男子に比べて血圧が上昇しやすい結果となっています。


血圧の上昇の違いによって、より女性に脳卒中が増加すると河野教授は考えています。


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実際の女性たちの心身の変化とは?

震災後に脳卒中で亡くなった大畑ミドリさん(当時52歳)は避難所から病院に搬送されたとき、血圧は200を超えていました。家族4人が避難した先は、最大で3000人が詰めかけていて、ライフラインが途絶えていた過酷な状況でした。夫はガスの復旧工事で忙しいため、大畑さんが一人家族を支えている状況でした。


地震から月後、大畑さんに異変が起き、鼻血が止まらず頭痛も訴えていました。その1か月後、大畑さんは避難所で突然意識を失い、搬送先の病院で息を引き取ったということです。


災害時の血栓が及ぼす影響を長年研究してきた新潟大学病院の榛澤和彦医師は、女性の方が避難所で運動不足になったり、トイレを我慢し、水分を控えたりする傾向があるため、血栓ができやすいとのこと。


血栓は、エコノミークラス症候群など、命に係わる病気につながる、と警鐘を鳴らしています。



当時、血栓の疑いのあった52人の女性の一人、神戸で被災した安川孝子さん。
22年前の地震のあと、突然倒れ入院しました。


安川さんの入院記録によれば、地震から11日後、突然胸の痛みを訴え、意識を失っていたとのこと。
診断は「肺塞栓症(エコノミークラス症候群)」。


家族6人で車中泊をしていた安川さんは、トイレの回数を減らそうと水分を控えていました。血管にできる血栓は、避難生活では特に足にできやすいのです。


血栓は、肺の血管で詰まるエコノミークラス症候群や心筋梗塞につながり、命を脅かす恐れがあります。


血栓のリスクは阪神淡路大震災から22年たった今でも続いているのではないか、ということで、神戸で調査が始まり、安川さんも調査に協力しています。


安川さんはこの22年、血栓の検査を受けたことがありません。
実際に検査をしてみると、左足に血栓が見つかり、長さは5㎝。血管からはがれかけていました。


結局、血栓は複数見つかり、一度病院で詳しい検査を受けることになりました。

この日検査を受けた女性21人のうち、足の血栓が見つかったのは8人。
被災していない地域の、同じ年代の女性と比べると2倍の多さです。


3500人の入院記録から、地震直後に血栓があった女性は、被災地全体で1万人以上に上っていたと推定されます。震災から22年、女性の体に潜むリスクに、今ようやく目が向けられ始めています。


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女性の視点を生かした災害時の取り組みとは?

昨年の熊本地震でも、入院が必要と判断された54人のうち、42人が女性でした。
震災のとき、多くの女性に血栓ができてしまうという現実は今も変わりません。


ただ、対策として自分たちでできることもあります。
それは、震災直後の女性のストレスが減るように、避難環境を改善すること。
それから、足首のストレッチやこまめに水分を摂ること。
弾性ストッキングをはく(血行をよくして血栓を防ぐことができる)。

熊本県の益城町の避難所で4か月間リーダー役を務めた主婦の吉村静代さんという方がいます。
自主防災組織の代表として長年活動をしてきた方です。


吉村さんたちが避難所で、少しでもストレスを少なくしようと考えて工夫した事とは、

・プライバシーを確保できるカーテン
・体への負担が少ないダンボールベッド
・避難所の人たちが互いに悩みを相談できるスペース
・母親が子供を安心して遊ばせておける場所

吉村さんが大事にしたのは、普段の生活に少しでも近い生活をしたいという女性の声でした。


女性の声はどう生かされたのか。
「こうするとうまくいくことってありますか?」と有働アナウンサー。


吉村さんが答えます。
「基本的には、日常に帰ることが一番でしょうね。自分が好きな形で生活したいと思っていたから、ただひたすらその辺をずっとやっていたのが日常だったわけですよね。その日常が皆さんたちにとっても日常だったわけだから」。

女性が声を上げやすい環境をつくることが、ストレスを減らし、体と心を守ることにつながるのではないか、と案内役の有働アナウンサーが語っていました。

まとめ

今、各地の自治体は女性の視点を生かして災害に備えようと動き始めているようです。
避難所を作る訓練では、着替えや授乳のスペースを設けるなど、女性のニーズを取り入れるようになりました。


妊婦と小さな子供を守る取り組みも進められています。
国は先月、“リエゾン”という、災害時に活動する医師の育成に乗り出しました。
“リエゾン”は、避難所などにいる妊婦と子供の状況を迅速に把握し、行政や病院からの支援につなげることを目的としています。


自然災害は、いつ、どのくらいの規模で起こるか予測がつきません。
これからも災害を避けることは難しいかもしれませんが、今までの体験を生かして防災を強化したり、避難先での生活を工夫して、ストレスを軽減することは可能になるのではないでしょうか。